オウム真理教の元代表麻原彰晃、本名松本智津夫死刑囚ら7人の死刑が執行されました。
多くの若者を集めて引き起こした数々の無差別テロは、平成に入って最悪の事件と言われています。
今日は予定を変更して死刑執行の背景とこれからの課題を考えます。
解説のポイントです。
何故今執行されたのか、教団の現状と今後懸念される点、最後にテロとカルトの教訓です。教団による一連の事件では平成七年の地下鉄サリン事件などで合わせて27人の命が奪われました。
猛毒の神経ガスサリンによる後遺症で今も苦しんでいる人が少なくありません。
この事件から20年余り、今日松本死刑囚ら七人に死刑が執行されたのはなぜか?
上川法務大臣は会見で慎重に検討し厳正に対応したとしながらも今日執行した理由は答えられないとしています。
しかし執行に向けた条件は徐々に整えられていたとみられます。
最大の理由は特別手配されていた高橋克也受刑者の無期懲役が今年最高裁で確定したことです。
教団による一連の事件の刑事裁判はこれで全て終わりました。
死刑囚が今後法廷で証言を求められることがなくなったため失効に向けた支障もなくなったとみられていました
さらに3月には13人の死刑囚のうち7人が東京拘置所から全国の5箇所の拘置所へ移送されていました。
これも同時進行に向けた準備ではないかという指摘が上がっていました。
一方で今回の死刑者に対しては精神状態が悪化しており、まず治療を受けさせるべきだったという意見があります。
法律は死刑囚が心神喪失の場合、大臣の命令で執行を停止すると定められております。
松本死刑囚については、家族や弁護士と意思の疎通ができず、ここ数年面会にも応じなくなっていたということです。
一方で法務省は国会で死刑確定者の精神状態は必要に応じて医師の診療を受けさせるなど配慮していると説明しています。
つまり今回の死刑執行は心神喪失の状態にはないと判断したということになります。
言い分は大きく対立していますが、実際はどうだったのでしょうか?
松本死刑囚の姿を見ることができたのは一審の裁判まででした
私は一審のを判決まで2年間傍聴してきました
こうした事件当時の写真から髪が伸びた丸顔というイメージの人が多いと思いますが法廷ではこちらのようにやや痩せて面長の印象で白髪の髪を短く刈り揃えていました。
法廷で質問されても言葉を発しませんでしたが、証人として出廷した当時の弟子の言葉に頷くような反応を見せることもありました。
しかし判決後は14年あまり外部に姿を見せていませんでした
こちらをご覧下さい
これは情報公開で開示された去年12月の前回の死刑執行に関する文章です
ご覧の通り全体の半分以上が1ページ全て黒く塗りつぶされています
これでは精神状態はどうだったのか、そしてどのような経緯で執行されたのか把握することはできません
こうした黒塗りは日本の死刑の秘密主義を象徴すると指摘されています
現状では松本死刑囚の精神状態がどうだったのか議論し検証することは困難です
市民が参加する裁判員裁判での死刑判決も出ている中で情報公開の在り方を検討する時期に来ているのではないでしょうか?
さて執行によって懸念されているのがオウム真理教から名前を変えた教団アレフなどの今後です
各地で住民などによる抗議活動も続いています
公安調査庁によると教団は全国に施設を持ち信者の数は分裂した団体を含め1650人に上っていますアレフの資産は10億円を超え5年前の2倍近くに増えています
全体数は横ばいですが今も年間100人以上が新しく教団に入っているということです
そしてこちらこれは今年4月の夕方、埼玉県にある教団施設に次々と車が到着してきます
アレフはここで全国から信者を集めて修行などを行う集中セミナーを開いていました
私はこの日夜まで現場で取材をしていましたが車は10回以上出入りし少なくとも数十人が中に入ってきました
では中はどうなっているのでしょうか?
これは札幌の施設で去年秋に撮影されました
祭壇の中央部分を見てください松本死刑囚の写真があります
公安調査庁によると幹部たちは教祖の説法として松本死刑囚のかつての音声を聴かせ今も尊師などと呼ばせているということです
セミナーの参加費は一人5万円から7万円獲得した資金はこの時だけで2700万円に上るということです
このセミナーについてアレフは取材に対して不殺生の教えをはじめとする原始仏教の教義の学習などを行い各種の瞑想修行も併せて行なっておりました、などとコメントしています。
公安調査庁は教団の中で松本死刑囚がいっそう神格化され過激な行動に出る者が現れるのではないかと警戒を強めています
観察処分に基づいた監視が今後も求められます
最後のポイントは、今後のテロやカルトの教訓です。
一連の事件の特徴は教団がサリンや猛毒の VX を自ら製造したということです
最近もシリアの内戦でサリンを使った攻撃が行われたとされています
化学兵器によるテロの危険は今も世界で続いています
化学兵器の専門家コロラド州立大学のアンソニー・トゥー名誉教授は許可を得て中川智正死刑囚と何年間も面会し教団がどのようにサリンを生成したのかなど聞き取り調査を行っていました
トゥー名誉教授は一人はテロを防ぐため極めて重要だと話しています
一連の事件からテロの教訓を導き出す取り組みは今後も積極的に行うことが必要です
私は今回死刑が執行された早川紀代秀死刑囚がまだ上告中だった時期に手紙を交わし東京拘置所で面会して直接話をしていました
雑談をしていた早川死刑囚は私にまたいつかオウムと同じような団体が現れて社会に居場所のない若者たちを集めテロ事件などを引き起こすと思うと話していました
早川死刑囚は教団を作り上げた初期からの幹部だけに再び同じような事件が起きる恐れがあるという言葉は非常に印象的でした
多くの若者が松本死刑囚に引き寄せられ危険な教えを信じて凶悪な犯罪集団を作り、罪もない人々の命を次々と奪っていきました
平成の30年間で最悪と言われるオウム真理教による一連の事件、死刑執行で終わったというのではなく事件を知らない若い世代が増える中で一連の事件を学びテロとカルトの教訓を共有することはむしろこれからが重要になるのではないでしょうか?
今夜はこれで失礼します 。